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新年座談会〜結局「1円税制適格ストックオプション」ってどうなの?

新年座談会〜結局「1円税制適格ストックオプション」ってどうなの?

2025年もよろしくお願いします🙏

宮田・小林・野瀬:あけましておめでとうございます!2025年です!

宮田:新年最初の座談会ということで、スタートアップのみなさんが興味を持ってそうなトピックについて考えてみたのですが…やはり2024年で一番スタートアップからの質問が多かった「1円税制適格ストックオプション(以下、SO)」でしょうか?行使価額のセーフハーバールールができて行使価額1円がOKになった(注:2023年7月に国税庁より公表された法令解釈通達)のは広く知られていますが、実態としてどういう使われ方をしているのかってあまり公に語られていないですよね。

小林:そうそう。私のところにも多くの経営者から「ほんまに1円にしてええのん?」というお悩み相談が寄せられています。結論から言ってしまうと「1円にすべきかどうか」は、会社が何を優先してSOを設計するかという問題と深く関係するので、バシっとした正解はありません。ただ、経営者として一通りの論点を把握しておくのはマストでしょうね。発行したあとに「あ、そういうの考えてなかった…」となるのはまずい。

野瀬:Nstock社でも2024年に2回自社のSOを発行しましたが、行使価額については毎回議論になりましたよね。経営者・株主・社員それぞれの視点でのプロコンがあって盛り上がった記憶があります。今日はコバケンさんもいらっしゃるので、宮田さん=経営者、コバケンさん=株主(VC)のそれぞれの立場から「1円税制適格SO」について色々ぶっちゃけてもらおうと思います。新年大放出でお願いします(笑)。

経営者・株主としての見方

野瀬:各論に入る前に、今のお二人の「1円税制適格SO」に対するスタンスを手短に教えてもらえますか?

宮田:はい、僕はアーリーステージのスタートアップ経営者として「1円税制適格SO」の肯定派です。理由は大きく2つあって、1つが社員に分配できるキャピタルゲインを最大化できること、もう1つが採用やリテンションの武器としてのSOの魅力が大きく増すことです。もちろん常に1円にすべきだとは思っていませんが、それはのちほど。コバケンさんはどうですか?

小林:私は株主(VC)として「1円税制適格SO」の”慎重な”肯定派です(笑)。絶対ダメ!ということでは決してなく、次に挙げる論点をステークホルダーとしっかり議論した上での1円であればアリだと思っています。その論点とは、1) モラルハザード、2)増資機会の逸失、3) PLインパクト、の3つです。

野瀬:ありがとうございます。色んなキーワードが出てきたので、1つずつ深堀っていきたいと思います。

【論点1】キャピタルゲイン vs モラルハザード

野瀬:まず、宮田さんが挙げられていた「1円税制適格SO」のメリットについてもう少し詳しく教えてください。セーフハーバールールが公表されたとき、宮田さんが「激ヤバ!1円一択やん!」と反応されていたのをよく覚えています(笑)。

宮田:大前提として何のためにSOを配るのかというと、僕の場合それは「社員への富の再分配」と「採用・リテンション」のためです。前者については前々から言っている通り、スタートアップというリスクの高い環境に飛び込むからには、成功した暁にはきちんとリターンを得て欲しいと思っています。リターンは大きければ大きいほど嬉しいので、限りあるオプションプールから生み出されるキャピタルゲインを最大化しようとすると、行使価額はできるだけ低く抑えたいということになります。結構シンプルです(笑)。

後者についても同様の考えです。例えば時価総額100億円の会社で、キーパーソンを採用するために1%のSOを用意したとします。一方はセーフハーバールールに依拠して行使価額1円、もう片方はより高い行使価額(例えば会計上の株価)が設定されていたとします。前者はもらった時点で1億円(100億円*1%)の含み益が生じており、後者は1億円から行使価額が差し引かれます。場合によっては1億円のうち半分以上が行使価額ということもあるでしょう。比較して同じ1%でもどちらが採用に効いてくるのかは言うまでもありません。リテンションについても同じ話です。

野瀬:それに対して、コバケンさんが挙げていたモラルハザードの問題が出てくるわけですよね。ここで言うモラルハザードとは「行使価額が1円だと株価によらず含み益がある」状況により、経営陣や社員が企業価値の向上よりも純粋に早期IPOなど流動化機会を作ることに意識が向かってしまうリスクのことを指していますか?

小林:はい、その通りです。SOの発行というのは基本的に既存株主の希薄化に繋がるものです。それでもオプションプールを設けて一定の希薄化を認めるのは、SOが経営者・社員・株主の利害を一致させ、企業価値向上という共通ゴールに向けて目線をアラインさせることができるからです。言い換えると、そうした効果を生まないSOは株主にとってメリットがないため、安易にGoサインを出せるものではありません。

SOの基本思想は、「現在の株価(At the money)」から会社を大きく成長させて株価を上げた時に大きなリターンを得るという仕組みなので、企業価値が伸びなければリターンは生まれません。しかし、付与された時点で非常に大きな含み益があるとすると、「企業価値を上げていこう」というモチベーションは本当に強まるでしょうか?「いくらでもいいから早くIPOして利益を確定させたい」という株主(特にレイターステージで入った株主)が望まないインセンティブが働いても不思議ではありません。

ただし、これはExitの蓋然性が相当程度高まったレイターステージのスタートアップに特に言えることで、そもそもExitできるかどうかの不確実性が高いアーリーステージのスタートアップの場合、1円であってもExitに向けたモチベーションを引き出すという意味で正当化できる場合もあるでしょう。また、レイターステージであっても行使条件に業績などの要件を課すといった工夫をすることで、ステークホルダーと目線を合わせることは可能です。

野瀬:アーリーステージの件は今のNstock社に当てはまりそうですね。去年我々が発行したSOの行使価額は1円ですが、今後もずっと1円を維持すると決まっているわけではなく、事業の進捗等を見ながら株主のみなさんに相談することにしています。あと、昨年11月の「Nstock社の「SO制度」ほぼ全公開します」の記事で詳細を記載していますが、行使価額が1円なのは社員向けのSOのみで、経営者である宮田さんのSOはセーフハーバールールは適用されていませんよね。

宮田:そうですね。冒頭で「1円税制適格SO」の肯定派と言ったものの、あくまで株主やその他ステークホルダーとの利害一致が前提です。コバケンさんがさきほど指摘していた点ももっともだと思うので、Exitに一定の影響力を持つ経営陣のSOについては、セーフハーバールールに依拠しない行使価額をスタート地点として考えています。その分付与量は多くして、株価を上げるインセンティブをより強く持ってもらう。自分のSOの行使価額を会計上の株価に設定したのも、株主に経営者としてのコミットメントを示すためと、社員向けの「1円税制適格SO」とのバランスを取るのが目的です。

野瀬:ありがとうございます。経営者としてはせっかくスタートアップに有利なルール改正がなされたのだからそのメリットを最大限に取りにいきたいという思いがある一方、杓子定規に1円に設定してしまうのも安易と言えるかもしれません。「何でもかんでも1円」ではなく、会社のフェーズ、付与者の属性や付与量によって行使価額を調節したり、1円とnon-1円のハイブリッドで付与するという選択肢もありそうですね。

【論点2】増資機会の逸失の問題

野瀬:2つ目の「増資機会の逸失」の話に移りたいと思います。

SOが行使されると、行使価額相当額が会社に払い込まれ資本金が増加し純資産が厚くなります(新株発行の場合)。コバケンさんが冒頭で挙げられていたのは、行使価額が1円だとそうじゃなかった場合に比べて会社の純資産が厚くならないという話ですよね?得べかりし増資、とでも言いますか。

小林:はい、このSO行使による純資産の増加って無視されることが多いのですが、実はバカにならないんですよね。例えば、時価総額20億円の会社と2,000億円の会社があるとします。10%のSOを出す場合、セーフハーバールールに依拠しない時価(例えば会計上の株価)を行使価額として設定すると、ざっくり前者で0.2億円、後者で20億円程度の行使価額の払込が見込まれる計算になります。行使されることが前提にはなりますが、「行使価額を1円にする」ということは、将来的に増やせたはずの純資産を諦めることと同義と言えます。

特に、日本の上場グロース企業には純資産の厚みが十分でないことがままあり、突発的インシデントやM&Aの失敗による減損などによって、債務超過寸前の状況に陥っているケースが実際に複数存在しています。「上場後にSOの行使で増資ができていれば...」と苦境に陥ってから思っても後の祭りになってしまいます。

宮田:これはコバケンさんの仰る通りなんですよね……!

純資産の増加って言われてもピンと来ない起業家の方はいると思うのですが、シンプルに会社の資金調達の機会を棒に振っていることになるんですよね。

0.2億円くらいの金額であれば、社員のキャピタルゲインを優先したほうが、会社にとっても良い結果になると思っています。しかし、それが20億円ともなると、会社に20億円の増資の機会損失を与えることになるので「行使価額1円にして社員のキャピタルゲインを増やしてあげたい」という理由だけでは株主に説明がつかない気がします。

話していて思ったのですが、この問題のインパクトって会社の時価総額に結構左右されそうですね。時価総額が数億円規模なら行使価額1円のメリットを優先する選択もできそうですが、レイターステージになって増資機会の逸失が数億〜数十億円というレベルになると、ちょっと考えてしまいます。行使価額1円のメリットが増資機会逸失のデメリットを上回るのか、という議論も必要になりそうですね。

小林:その通りだと思います。

宮田:Nstock社も実際の増資機会逸失によるインパクトがどの程度かをシミュレートしてみて、今のところはまだ1円でOKという結論になりました。今後フェーズが進むにつれて考えていく必要がある問題だと思っています。

【論点3】PLインパクトの問題

野瀬:最後はPLインパクトのお話です。セーフハーバールールに依拠した行使価額を設定することにより、DCF等を用いて算定された会計上の株価との差額(本源的価値)が生じ、それが株式報酬費用としてPLに計上されるというものです。コバケンさん、改めてこのPLインパクトって主にどういったスタートアップが留意すべきなんでしょうか?

小林:ずばり上場が近い会社です。株式報酬費用はキャッシュアウトが伴う費用ではないものの、この費用のせいで黒字だったPLが赤字になってしまった、上場に向けたバリュエーションに影響が出てしまった、という負のインパクトは無視できるものではありません。アーリーステージであればPLインパクトもそこまで多額ではなく、Exitまでの時間も長いため、十分に吸収できる額だと判断できるかもしれません。まさに、Nstock社のSOの行使価額はこうした議論の結果「1円」になりましたよね。

宮田:質問です!セーフハーバールールで計算した結果、行使価額1円になったとします。この場合、行使価額は必ず1円にする必要はないんですよね?これまで出てきたキャピタルゲインvsモラルハザード、増資機会の逸失、PLインパクトの話っていずれも程度の問題だと思っていて、例えば1円と会計上の株価の間を取ったり、PL上許容できる費用から逆算して行使価額を設定することって可能ですか?

野瀬:可能です。税制適格SOの行使価額については、租税特別措置法第29条の2第1項第3号で「新株予約権の行使に係る一株当たりの権利行使価額は、当該新株予約権に係る契約を締結した株式会社の株式の当該契約の締結の時における一株当たりの価額に相当する金額以上であること」と定められています(太字筆者)。セーフハーバールールは、上記の「契約の締結の時における一株当たりの価額」の算定ルールを明確化したものです。したがって、セーフハーバールールを適用した結果1円になったのであれば、それ「以上」の価額を設定すれば税制適格SOの要件を満たすことになります。

宮田:ありがとうございます!赤字にならない程度に行使価額を引き下げて社員のキャピタルゲインを確保してあげる、という選択肢も可能ということですね。各ステークホルダーとの利害を調整する際の選択肢の1つになりそうです。

最後に

野瀬:新年一発目からかなり盛り上がってしまいました。今日はこの辺にして、そろそろ締めに入りたいと思います。宮田さんとコバケンさんから最後に一言ずつお願いします。

宮田:おそらく多くの経営者が「この会社に入ったことが、自分の人生にとって、素晴らしい選択だった」と、社員の皆さんに感じて欲しいと思っているはずです。会社の急成長を通して得られる経験や成長はもちろんですが、報酬の面でも「本当に良かった」と思って欲しいですよね。

行使価額を1円に抑えられることは、キャピタルゲインをより多くの人に、より多くの金額を渡せることになるので、セーフハーバールールはすごくありがたいものだと思っています。

モラルハザードの問題は、この記事の解説の通りなんとか整理できると思いますが、増資機会を逸することは会社の成長にもブレーキをかける可能性があると思っています。会社の時価総額に悪影響を与えてしまっては、結果、社員の皆さんの利益も損ねることになるので、ここはバランスのとれた意思決定を心がけたいですね。

スタートアップは、資金力や人材力で大企業に大きく劣ります。そんなスタートアップが使える最大の武器が、株式報酬だと思っています。この武器を最大限活用することができれば、少なくともユニコーン級の会社は目指せると思っています。小難しいことも多いですが、ぜひ使いこなして会社を成長させて行きましょう!

小林:「1円税制適格」SOはもらう側にとってのメリットが大きいことは明らかですが、その裏返しとして株主との間にコンフリクトが生じやすいものにもなっています。能天気に「行使価額1円にしました〜」と取締役会に上げて、株主から手厳しいリアクションを受けたという事例も耳にしたことがありますが、一方で、株主に対して丁寧な説明を行って理解を得た上で大規模に導入したケースも出てきています。

「もらう側にとってメリットが大きい」ということは、ズバリ「より強力な採用上の武器となる」ということでもあります。今回挙げた論点に関して株主としっかり議論して理解を得られれば、激しい採用競争を乗り切る上での大きなアドバンテージを得られます。幹部クラスの採用がスタートアップの超重要イシューであることは言うまでもありません。経営陣がこだわりをもってSOを設計しているかどうかで、今後大きな差が生まれると思います。

前述の通り、行使条件に業績要件や株価要件をつけて株主との目線合わせをした上で経営幹部向けの大型株式報酬として設計したり、採用時のサインアップボーナスとして、価値がわかりやすいフルバリュー型報酬として通常のSOと区分して使うなど、様々な工夫が考えられます。


「1円税制適格SO」は、「行使価額の低いSO」と捉えると「なんでそんなに行使価額を下げる必要があるのか」という厳しい指摘を受けやすいのですが、一方で、従来からの1円非適格SOやRS/RSUなど、フルバリュー型の株式報酬が用いられることも実際にはあります。「SOの行使価額を下げる」という見方ではなく、フルバリュー型株式報酬が適している場面で、唯一の税制適格型であるメリットを最大限活かす、と考えれば活用方法も広がると思います。

野瀬さんからも最後に一言ありますか?

野瀬:はい、あります!2024年の振り返りに、1年でどれくらいのスタートアップと株式報酬の壁打ち(商談内での相談も含む)を実施したのかカウントしてみたんです。結果は140社でした。個別の打ち合わせだけで140社、ICCやB Dash Campでの「SO相談会」や中小機構のアドバイザーとしての支援も含めると200社を超えるかもしれません。その中で最も多かったトピックは「信託SO問題の対応」、次いでこの「1円税制適格SO」でした。

「1円税制適格SO」については、今日お話したような内容のほか、年末にかけて「株価算定の監査に想定外のコストがかかっている(かかりそうだ)」という声が多く聞かれるようになりました。セーフハーバールールが出てきたことによって会計上の株価算定が必要になりましたが、算定費用に加えてその算定書をチェックする監査費用が新たに生じているという話です。聞くところによると百万円単位の費用になる場合もあるということで…予算策定の際などに忘れないようにしたいですね。

あと、「株価算定でおすすめの委託先はどこですか?」という質問もよく受けます。大小さまざまな機関が同サービスを提供していますが、個人的には値段以外のポイントもしっかり確認して選定することをおすすめしています。算定書が監査に耐えうるものなのか?というクオリティや(算定機関のクライアントの)上場実績は当然ながら、監査法人・株主などのステークホルダーから算定ロジックを求められた際のサポート有無も確認しておいた方がいいです。株価算定は専門性が高く、素人が算定モデルやロジックを100%理解するのは難しいので。

小林:なるほど。セーフハーバールールによって新たに生まれた悩みと言えますね。

野瀬:というわけで!

宮田・小林・野瀬:2025年もNstockをよろしくお願いします!

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