Nstock社の「ストックオプション制度」ほぼ全公開します

30%のオプションプールとストックオプションの「お財布管理」

野瀬:
宮田さん、おかげさまでNstock社は9月に30億円の資金調達を終え、一段とギアを上げて「やっていくぞ!」という雰囲気になっていますよね。お客さまからも多くの期待の声をいただきありがたい限りです。それとセットで最近よく話題になるのが「そういえば御社のストックオプション(以下、SO)ってどうなっているの?」というものです。株式報酬Saasの事業を手がけている以上、Nstock社自身のSOについても注目されているのを感じます。

というわけで!

今日は宮田さんにNstock社のSOについて語り尽くしてもらおうと思います。よろしくお願いします〜。

宮田:
ぜんぶ喋っちゃいます!

野瀬:
まず大枠のところから聞いていきたいのですが、投資家の方々と握っているNstock社のオプションプールについて教えてください。実は私、今回の調達時のSHA(株主間契約)を見てまずびっくりしたのがそこなのです(笑)

宮田:
SHAで握っているオプションプールは、30%です。すごくないですか?

ただ、この30%には内訳があります。20%は社員向けのSO、残りの10%はCEOである僕が将来的にNstock社の株式を持つためのものです。自分でゼロから立ち上げたSmartHR社と違い、Nstock社はSmartHR社の100%出資で立ち上げた会社なので、創業時の僕の直接的な持分は0%です。

Nstock社のCEOとして、自分で出資したりSOをもらったりすることでNstock社の生株を一定持てるようにしておきたい、という想いから今回設定していただいたのが10%になります。もちろんそれなりに厳しい条件をクリアしないと行使できない設計にしており、投資家の方々と利害関係がアラインするように工夫しています。

野瀬:
ありがとうございます。社員向けに使えるオプションプールは20%ということですね。ここからはその20%のオプションプールについて深掘りしていきたいと思います。

「オプションプールがX%あるが、どうやって配布ルールを決めればいいのか分からない」という声をよく聞くのですが、宮田さんはSOを「目的別のお財布に分けて管理する」という言い方をされていますよね。詳しくお願いします。

宮田:
はい、これは僕がSmartHR社のCEOだったときの反省なのですが、途中で配れるSOが枯渇しちゃったんです。

理由は3つあります。1つ目はSmartHR社はオプションプールが10%しかなかったこと。2つ目は諸事情によりSOが細かく分割できない仕様になっていたせいで、SO1個あたりの価値が大きすぎて配りにくくなってしまったこと。

そして3つ目は、配り方の問題です。オプションプールを1つのお財布でざっくり管理していたので、長期的な計画に基づいた付与ができていませんでした。「社員数はどう推移するか」「CxOクラスはいつ採用するか」「いつIPOするか」など不確定要素が多い中で、まさに手探り状態の期間が長かったです。結果として、SmartHR社の社員全員にSOを持ってもらうことは叶わず、悔しい思いをしました。

Nstock社ではその反省を活かし、オプションプールを20%にすることはもちろん、予めオプションプールを目的別の3つのお財布に分け、計画的に使っていくことにしました。

3つのお財布とは、1)初期メンバー向けのお財布、2)定期付与用のお財布、3)キーパーソン採用向けのお財布です。お財布に入れるSOの量は、1)5%、2)10%、3)5%にしています。

3つのお財布の中身👛

野瀬:
3つのお財布の中身を紐解いていきたいのですが、社内に公開しているこちらのスライドに沿って聞いていきます。

■ Nstock社のSO付与方針

【1つ目のお財布】初期メンバー向けのSO

野瀬:
まず1つ目の初期メンバー向けのお財布についてお願いします。

宮田:
1つ目の初期メンバー向けのお財布は、名前のとおり創業初期に入社した社員に配るSOです。プロダクトも売上も何もない一番リスクの高い時期に入社してくれたことに対する「ありがとう」が込められたSOです。このお財布には5%のプールを割り当てています。

Nstock社は2022年1月の創業ですが、このSOを発行したのは約2年半後の2024年6月です。発行のタイミングには2つ理由があります。1つ目は、プロダクトがPMFしたと判断してから発行したかったため。将来Exitしたときにピボットした別の事業が成功していて初期メンバーの貢献とリターンが一致していない…という事態は避けたいですよね。おかげさまで、Nstock社の1つ目の事業である株式報酬SaaSについては自信をもってPMFしたといえる状況であることから、この条件はクリアしました。

2つ目は、税制適格SOに関する税制改正の施行を待っていたためです。ご存じの通り、令和5年度から6年度にかけて税制適格SOの使い勝手が大きく向上する改正がいくつもなされました。そのメリットを確実に取りにいきたかったので、税制改正の施行日である4月1日を待っていました。結果的に2024年いっぱいの経過措置が設けられたため、この点は杞憂に終わったのですが(笑)

野瀬:
このSOについて補足すると、対象となったのは2024年1月までに入社した19名でした。発行量はお財布に入れていた5%で、個人への割当個数は入社時期により傾斜を付けました。早く入社した人ほど多くのSOをもらえたと言えます。

ちなみに、この5%というのは9月の資金調達で3%台にまで希薄化していますが、これについては追加付与で回復させる予定はありますか?

宮田:
いいえ、希薄化のケアはしない予定です。資金調達を経てNstock社の企業価値はしっかり成長しているので、持分が希薄化しても想定キャピタルゲインは大幅に増えています。希薄化によって生まれたお財布の余裕分は、他のお財布のバッファに回す予定です。

【2つ目のお財布】定期付与のSO

野瀬:次に、2つ目の定期付与のお財布の話に移りたいと思います。このお財布には最も多い10%のプールを割り当てていますよね。その心とは何でしょうか?

宮田:
「Exitまで確実に社員全員にSOを配ること」です。配り方については、Exitまでの期間を仮置きで10年とし、均等に年間1%ずつ付与していく予定です。具体的には、半年に0.5%ずつ年2回に分けて付与しますが、そのときに在籍している社員で0.5%を「山分け」するイメージです。Nstock社ではまだ正式な評価制度は導入していないので、今のところ等級による緩やかな傾斜を付けて付与しています。

いずれにせよ、人数が増えれば増えるほど1人あたりの取り分は少なくなってしまうので、採用候補者には「早く入社したほうがお得だよ!」とよく言っています(笑)

野瀬:
無闇に採用して人を増やすのではなく、本当に必要な組織規模や人員計画を考える良いきっかけにもなりますね。

宮田さんがこだわる「社員全員にSOを配る」ことについて、色々なスタートアップの経営者の方々とお話ししていると「リテラシーの低い社員には配っても意味がない」とか「全員に配ると一人当たりの個数が少なくてインセンティブにならない」という声をたまに聞くのですが、その点についてはどう思いますか?

宮田:
2つ反対意見がありまして、1つ目は「組織のなかに分断をつくらない」です。これはIPO経験がある経営者から何度か聞いたことがあるのですが、SOを持っている人、SOを持っていない人で、IPO後に組織内で分断が起きるそうです。大変な思いをして会社をIPOさせることに成功しても、それで儲かるのが一部の人だけという構造だと「面白くない」と思うのが人間だと思います。会社にコミットしているみんなの利害を一致させたい。そのためにSOを全員に持ってほしいと思っています。

もちろん濃淡はあると思いますが、「一人当たりの個数が少なくてインセンティブにならない」ということはないかと思います。僕は新卒で入社した会社で、SOを付与された経験があります。そのSOは結局放棄して終わったんですが、付与されたときには「100〜300万円になるかもよ」と先輩社員に言われ「マジで!?めっちゃがんばろ」と思った記憶が残っています。金額の大小はもらう人の経験や経済状況によるので、一概に少額だからと検討をやめるのはもったいない気がします。ちなみにNstockではキャリアが長い、SO行使経験もあるスタートアップ2周目の人たちが多いので、そんな人でもテンションが上がるくらいの量は渡したいと思っています。

2つ目は、「社員のリテラシーが低いのは、配る側の問題では?」説です。リテラシーの低い社員がいるのは会社が十分に説明をしていないからかもしれないし、社員側は「もっと知りたい・教えて」と思っている可能性だってありますよね。僕はよく「スタートアップが成功したときに経営者だけが儲かる構造はおかしい」と言っているのですが、改めてその点を強調したいと思います。

スタートアップというリスクの高い環境に飛び込むからには、成功した暁にはリターンがあって然るべきだし、そういう構造にしていかないとスタートアップに挑戦する人がどんどん減ってしまいます。結果的にエコシステム全体が萎縮することにも繋がりかねないので、良くないですね。

「どうせ分からないから付与しない」ではなく、いかに伝えて企業価値向上に向けたインセンティブに繋げていくか、というのが経営者が考えるべきことだと思っています。

野瀬:
同意です。個数や金額についても「少ないから意味がない」と決めつけないでほしいと思いますね。付与時点では100万円の価値しかないSOでも、企業価値が10倍になれば1000万円になります。そのチャンスを社員全員に分けてほしいなと思います。

宮田:
えらそうなことを言っていますが、SmartHR時代はけっこうちゃんと説明していたつもりでも、自分のSOの経済的な価値を正しく把握していた社員は約半数でした。そんな課題も解決したくて、Nstockのプロダクトを開発しています。

SOの価値が、社員に伝わってないと感じる企業さまは、株式報酬のポテンシャルを引き出すSaaS「Nstock」のプロダクトもチェックしてみてください。

【3つ目のお財布】キーパーソン採用・追加付与のSO

野瀬:
さいごに3つ目のお財布、キーパーソン採用・追加付与のSOについてお伺いします。こちらはまだNstock社では発行実績がないですが、どのような使い方をイメージされていますか?

宮田:
このお財布の用途は2つあります。1つ目が将来的にCxOやVPクラスを採用するため、2つ目が著しい成果を出した社員に追加付与するため、です。

前者については、今はまだ具体的な対象者や付与量などは決まっていませんが、イメージしているのは、現newmo CEOの青柳さんがメルカリさんに入社されたときに付与されたSOです(笑)。現金だけじゃ絶対に採用できない人やNstock社の未来を託す経営幹部にドカンと渡したいと思っています。はやく付与したい!

ほかにも、このお財布には著しい成果を出した社員に追加で付与するSOも含まれています。例えば、大きなプロジェクトを成功させた人へのボーナス的な付与や、CxOなどに昇格した人に対する将来への期待としての付与を考えています。

このお財布にどれくらいのSOが必要になるのかは全然読めないので、1つ目と2つ目のお財布で余った分(希薄化で余裕が生まれた分を含む)は、この3つ目のお財布のバッファとして取っておくつもりです。

野瀬:
現時点で5%以上のプールがこのお財布に割り当てられていますよね。定期付与以外にも、大きな成果を出せば追加のSOをもらえるというのはやる気に繋がりますね。

というわけで、お財布の話はこの辺で切り上げて、次は具体的な設計内容の話に移りたいと思います!

Nstock社のSO設計を大公開

ベースは税制適格SO

宮田:
Nstock社は創業してから計2回社員向けのSOを発行しました。初期メンバー向けのSOと定期付与のSOです。具体的にどんな内容だったか野瀬さんから説明をお願いします。

野瀬:
まず大前提として、スキームは税制適格SOです。スキームを何にしようか悩んでいるという相談もたまに受けますが、「付与者の要件を満たさない」「対象者が非居住者である」といった特別な理由がない限り、まず税制適格SOを選択して間違いないと思います。政府による「スタートアップ育成5か年計画」の追い風の中、ここ数年の税制改正を経て使い勝手が大幅に良くなりましたし、予測可能性と法的安定性の観点からも、スタートアップが最も安心して使えるスキームと言えるのではないでしょうか。

税制適格SOなので、当然行使期間や年間の行使価額の上限については税制上の要件を満たす必要があります。他にも色々な要件があるので、経産省のHPにまとめられている一覧表を貼っておきます。

■ 税制適格SOの主な要件

出所:https://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/stock-option.html

行使価額は1円?

野瀬:
では、SO設計において最もホットトピックな行使価額から聞いていこうと思います。令和5年7月の租税特別措置法通達の改正で純資産価額方式に基づく算定が可能になりましたよね。極端な言い方をすると、多くのスタートアップが行使価額を1円に設定できるようになりました。

ただし、1円にしてしまうと、本源的価値が生じることによるPLインパクトの問題や企業価値向上に向けた動機付けの問題が出てきますよね。あるスタートアップ経営者からは、外部株主から「NO」を突きつけられてしまって…という話も聞きました。Nstock社ではどのように設定したのでしょうか?

宮田:
結論から言うと、社員向けSOの行使価額は「今は」1円に設定しています。

Nstock社がアーリーフェーズであることがその理由です。会計上は外部機関が算出した普通株の時価を用いて費用計上していますが、アーリーなのでPLインパクトもそこまで多額ではありません。Exitまでの時間も長いので、十分に吸収できる額だと判断しました。

企業価値向上に向けた動機付けについても、「1円だと付与時点で含み益があるからモラルハザードにならない?」という声があるのは認識しています。ただ、4年間のべスティング条件を付けているので、ある程度の期間はコミットしないと権利確定しない設計になっています。

アーリーフェーズのスタートアップが成功できる確率って客観的に高くないので、SOそのものが紙くずになるリスクだって一定あるわけで。そのリスクを考えると、行使価額はなるべく安く設定してあげたいと思っています。

一方で、行使価額を1円にせず、会計上の時価でSOを付与した際には、将来的に多くの行使資金が会社に振り込まれることになります。この、1円じゃなかった場合に会社に振り込まれるはずだった行使資金も、今の時価総額ではそこまで大きな金額ではなく、社員のインセンティブを高めるほうが効果的という判断も大きかったです。

野瀬:
Nstock社が今後ミドルやレイターフェーズに進んだ場合はどうですか?

宮田:
会社経営における僕の想いとして「Nstock社が成功した暁には社員全員がお金持ちになってほしい」というものがあります。なので、キャピタルゲインが最大化される1円の行使価額はしばらくは維持したいと思っています。その一方で、Exitの蓋然性が高まったレイターフェーズでも同じように1円に設定すべきかは悩ましいですよね。PLインパクトやモラルハザードの問題がアーリーとレイターでは段違いに異なってくるからです。レイターになると、SOが紙くずになるリスクが下がる(現金化できる確率が上がる)ため、バランスを取るために行使価額を会計上の時価またはそれに近い水準に設定する、というのは一案かもしれません。

さきほどの、「1円じゃなかった場合に会社に振り込まれるはずだった行使資金」も、レイターステージでは数億〜数十億円になることもあり得ます。これは「社員のインセンティブが大きくなるから」という理由だけでは説明がつかない場合も多そうです。

野瀬:
選択肢が増えたゆえにスタートアップ経営者の悩みもまた1つ増えましたね(笑)。宮田さんから言及がなかったので私から補足しますが、宮田さんご自身のSOは、行使価額=会計上の時価に設定されていて、あくまで1円なのは社員向けSOだけです。

同じタイミングで付与するSOでも、セーフハーバールールを守っている限り行使価額を2パターンに分けて発行することも可能です。今回は、社員向けのSOは1円で、経営者である宮田さん向けのSOのみ行使価額を高くしている点もポイントですね。

宮田:
はい、CEOとしての株主との利害の一致と、コミットを示すためにそのように設定しています。先ほど話題にあがった「1円だと付与時点で含み益があるからモラルハザードにならない?」という点も、宮田には行使価額が高いSOが付与されているので、ケアができていますね。

SOは、トータルにするとすごい額の行使価額になるのですが、全部行使できるようにがんばります!

株式報酬として機能させるための条件

野瀬:
では、行使価額以外の設計の話に移りたいと思います。税制上の要件(上表)はしっかり満たしつつ、それ以外のオプショナルな条件も色々と付いているのがNstock社のSOです。

税制上は必ずしも必要ないんだけど「絶対あった方が株式報酬としてより機能するよね」という条件がいくつかあります。具体的には、1)べスティング条件、2)退職時の取り扱い、3)非上場時の行使(M&A・セカンダリー)の3つです。

こちらがサマリーのスライドです。スライドに沿って宮田さんに1つずつ内容を聞いていこうと思います。まず1つ目のべスティング条件からお願いします。

■ Nstock社のSO設計

1)べスティング条件

宮田:
はい、べスティング条件は「段階的な権利確定条件」とも言いますが、特定のタイミングですべてのSOを一気に権利確定させるのではなく、任意のスピードで少しずつ権利確定させていく条件です。税制適格SOの場合、税制上の行使期間の縛りは付与決議日後2年〜10年(または15年)なので、べスティング条件を付けない場合、最短2年後に行使可能になってしまいます。それだと十分にリテンション効果が引き出せないので、Nstock社では25%x4年のべスティング条件を付けています。

野瀬:
4年間ですべてのSOが権利確定するのはアメリカのスタートアップでも一般的だと聞きます。ちなみに、べスティング条件の起算日についてはどうですか?4年間の時計はどこからスタートするのでしょうか?

宮田:
べスティング条件の起算日は、冒頭にお話ししたお財布ごとに変えています。初期メンバー向けのSO(1つ目のお財布)については、リスクの高い時期に入社してくれたことに対する付与なので、起算日は入社日です。このSOは2024年6月に発行したのですが、創業時(2022年1月)に入社した社員は付与の時点ですでに2年が経過しているので、50%が権利確定した状態でSOをもらうことができます。付与から2年後には残りのべスティングも終わって100%が権利確定し、さらに税制適格SOの要件である付与決議後2年間の待ち時間もクリアすることになりますね。

野瀬:
なるほど。そのロジックを当てはめると、定期付与のSO(2つ目のお財布)のべスティング起算日も自ずと分かってきますね。

宮田:
定期付与のSOは半年ごとに発行していますが、それぞれの在籍対象期間を1〜6月と7〜12月にしているので、べスティングの起算日はそれぞれ1月1日と7月1日ですね。期間の途中に入社した人については、月単位で付与個数を調整しています。

さいごのキーパーソン採用・追加付与のSO(3つ目のお財布)はまだ発行実績がないのですが、採用に紐付く場合は入社日、在籍や評価に紐付く場合はその対象期間の始点を起算日にするのが合理的だと考えています。

2)退職時の取り扱い

野瀬:
次に退職時の取り扱いについてお聞きします。スライドには「ベスティング条件を満たしたSOについては、退職後も権利保有を認める」とありますが、その目的について教えてください。

宮田:
「SOを行使・株式売却できるタイミング(IPOやM&A)」と「社員がどれくらい会社に貢献してくれたか」というのは切り離して考えるべきだと思うからです。今日本のスタートアップで最も一般的なExitはIPOですが、IPO前に辞めたらすべての権利がなくなる(放棄させられる)設計って会社が有利すぎる設計だと思いませんか?

IPOのタイミングは経営陣が決めるものですが、それによって社員のリターンが0になったり100になったりする設計より、貢献した分=べスティング条件を満たした分については退職後も権利保有を認めてもらえる方が、フェアだと思います。

自分がSOをもらう側だとイメトレしてみても、4年なら「事業は面白そうだし、4年間なら在籍している可能性も十分にあるから、自分のキャリアのためだけでなく、キャピタルゲインのためにも会社の時価総額10倍するぞ!」となるのですが、10年の場合「10年後か〜。そのときも在籍している可能性はゼロではないけど、もう辞めている可能性が高いな。SOはないものとして考えよう。でも、事業は面白そうだし、次のキャリアでステップアップするためにも実績つくるぞ!」みたいに考えちゃうんですよね。10年頑張っても失効しちゃう可能性があるSOって、もらう側からするとインセンティブになりづらいなと。

また、SOが惜しいばかりに会社に縛りつけられる社員が出てくるかもしれない…という問題もありますよね。自分が活躍できるフェーズを過ぎたとわかっていても、SOのインセンティブが強すぎて辞めることもできない。SOのせいで適切な人材の流動性が阻害されるのは、社員にとっても会社にとってもlose-loseだと思います。

野瀬:
一方で、スライドには「付与目的によっては退職後の権利保有は認めないケースもあり得る」ともありますが、これはどういうケースを想定しているんですか?

宮田:
将来のキーパーソンや役員向けに発行するSOの場合、役割によってはIPOやM&Aというマイルストーンまでのコミットを求めるケースがあるかもしれません。例えばN-2期に入社するCFOがいた場合、「IPOまでよろしくね!」と退職時に持ち出せないSOを渡すのはおかしなことではないと思います。

ざっくりですが、社員向けのSOは労働の対価として役割が大きいので、持って辞められる方がフェア。役員やキーパーソンにはコミットを求める分、業績条件を付けたり、目的を果たせていないタイミングでの退職時には失効するなど条件を厳しくし、目標達成時にはかなりのキャピタルゲインを得られる量を付与する、のような設計がフェアかなと思っています。

3)非上場時の行使(M&A・セカンダリー)

野瀬:
さいごに行使条件についてお聞きします。Nstock社のSOは、IPO・M&A・セカンダリーの3つのExitを想定した設計になっています。令和6年度の税制改正で保管委託要件が撤廃されたことを受け、さっそく設計に反映したものですよね。

宮田:
はい、その通りです。株式保管委託要件の撤廃により、証券会社だけではなく発行会社自身が株式を管理することも認められるようになったため、非上場時の行使や株式売却のハードルが一気に下がりました。M&AというExitであっても、税制適格を維持したままSOのリターンを受け取ってもらえるのは経営者視点では大変ありがたいです。IPOもM&Aも立派なExitであることに変わりないのに、IPOなら全員でリターンを共有できる一方、M&Aだと経営者や株主だけが儲かる…というのは心苦しいなと常々思っていたので。

野瀬:
3つ目のセカンダリーについてはどうですか?Nstock社も株式報酬SaaSに次ぐ第二の事業としてセカンダリーへの参入を表明していますよね。

宮田:
非上場で税制適格SOを行使・株式売却ができるようになることは、M&A以外にもセカンダリー取引を行う上でも非常にプラスに働きます。

IPOまでの平均期間が伸びている中、非上場のうちにSOを換金できる手段があれば、スタートアップやそこで働く人の選択肢が増えるはずです。IPOを待つことなく一定のリターンを得て次の挑戦に進んだり、別のスタートアップに投資したりすることができる。

会社にも大きなメリットがあります。一番は、税制適格SOの行使期間の期限切れでの失効を気にすることなく、望まないスモールIPOを避けることができるし、会社にとってより良いタイミングで大きなIPOを目指すことができることです。また、セカンダリーで売却できる = 換金性が高いSOは、優秀な採用候補者への魅力付けにもなるでしょう。

スタートアップエコシステムにとって良いことしかないんですよね。Nstock社はまさに今、このセカンダリー取引のプラットフォームを作っています。スタートアップのみなさん、楽しみに待っていてください!というお気持ちです(笑)。

野瀬:
楽しみです!ここで私から宣伝なのですが、ここまでの話で出てきた設計内容をどう契約書に織り込めばいいの?と疑問に思われた方は、ぜひNstock社が無償公開している税制適格SOの契約書ひな型キットKIQSをご利用ください。Nstock社のSOも、もちろんKIQSベースで設計しています。

宮田:
KIQSって2022年11月の初版公開から1,600社以上(記事公開時点)にダウンロード頂いているんですよね。税制改正などのルール変更もしっかり反映させているので、ちょうどこれからSO発行を…という方はぜひご利用ください〜。繰り返しになりますが、無料です。

現金選択制の話

野瀬:
Nstock社のSO設計については以上になりますが、もう1つNstock社には特徴的な制度があるのでさいごにご紹介したいと思います。宮田さん、お願いします!

宮田:
はい。Nstock社ではSOの代わりに現金を受け取る選択肢を設けています。具体的には、「SO1個=X円」と換算額を提示し、社員がSOでもらいたい分・現金でもらいたい分、をそれぞれ選ぶことができます。SOの換算額については、第三者機関が行った普通株の算定結果を用いています。

野瀬:
社員にとっては選択肢が増えてありがたい話なのですが、経営者目線ではどんな目的があるのでしょうか?

宮田:
2つあります。1つは「10年後の1億円より今日の100万円」という選択肢を提示したいからです。お子さんが生まれたばかりでお金が必要だったり、家族みんなで海外旅行に行けるタイミングが今しかなかったり、車があるライフスタイルをいま手に入れたかったり、いましか推せない推し活に使いたかったり…と社員の多様なニーズに応えられる報酬設計にすることで、Nstock社で働く喜びやインセンティブがより大きくなるのではと期待しています。

もう1つはオプションプールの節約です。社員向けに20%のオプションプールがあると言っても、やはり余裕はあればあるほど安心ですよね(笑)。現金で受け取られた分はSOの節約になるので、今後のバッファとして取っておくことができます。

SOではなく現金で受け取ったからと言って「会社の将来にベットしていない」とは決して捉えませんし、どんどん現金を選択してくださいね!というメッセージを出しています。

野瀬:
私はまだ現金を選んだことがないのですが、次回付与のタイミングはGWにも近いので、久しぶりの海外旅行に向けて半分くらい現金でもらおうかなと思っています!

いや…でもやっぱりNstockの10年後を想像すると今現金を選択するのはもったいないような気がしてきました。悩ましい…!

宮田:
(笑)。念の為に付け加えると、この制度を今後もずっと維持できるかはお約束できません。社員数が増えると会社のお財布ともご相談しなきゃいけないので、アーリーフェーズ限定の選択肢になっちゃう可能性はあります。

さいごに

野瀬:
SOの配り方や設計は正解のない世界です。オプションプールの規模、会社のフェーズ、付与者の属性や人数などによって様々な選択肢があり、さらには会社のカルチャーや目指す姿との整合も必要になってくる難易度の高いものです。

当然ですが、SOをただ漫然と配るだけでは企業価値は向上しません。SOというツールを用いていかに経営者・社員・株主といったステークホルダーの目線をアラインさせることができるか、(僭越ながら)経営者の腕の見せ所と言えるのではないでしょうか。

今日ご紹介したNstock社の話は1つの事例でしかありませんが、少しでもSOに悩まれるスタートアップの方々のヒントになれば幸いです。

宮田さんからもさいごに一言ありますか?

宮田:
Nstockでは採用でのオファーの際に、SOの話を候補者の方にお伝えしています。他社さんと比べると社員の方に有利な条件なので、魅力に感じてもらうことが多いです。

自社の採用としては喜ばしいことではあるのですが「もっと工夫しないと他社に採用で勝てない!」というくらい、国内スタートアップのSOが社員にとってフェアな条件になったり、スタートアップを強くする武器としてちゃんと機能するSOになっていくとうれしいなと思っています。

ということで、さいごまでお読みくださりありがとうございました!

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